2006年10月12日

Barren conversation


「暇そうだな」

 そう声をかけられて、私は本から顔を上げた。
 声をかけたのは悪友と評してもいい幼馴染の男で、彼は私と視線が合うとニヤリと笑った。彼がそう笑う時は、ロクでもない話を持ち込むことが多い。

「暇じゃないさ。本を読むのに忙しい」

 念の為、私は予防線をはった。この前のように「暇なら金色のリュウを探しに行こう」などと言われては堪らない。

「それは残念だな。興味がありそうな話があるのに」

 彼はそう言って、私の向かいの席に腰掛けた。仕方なく本を閉じて側らに置く。

「お前、イザンゲを知っているか?」

 彼はそう尋ねた。イザンゲという名に、聞き覚えはない。

「知らん。誰だ」
「俺の母方の伯父の奥方のご実家の跡取りだ」
「…で、そのお前の母方の伯父上の奥方のご実家の跡取りがどうしたのだ」
「お、動じないか。もっと突っ込みが入るかと思ったが」
「突っ込んで欲しいのか」
「いや、『そんな奴を何で俺が知っていないといけない!』とか、『お前の家の家系図など把握していない!』とか、あるだろう」
「何年の付き合いだと思っている。いちいち突っ込んでいられるか」

 私がそう言い放つと、彼は心なしか寂しそうにため息をついた。それでもすぐに気を取り直して、身を乗り出してくる。

「で、まあ、そのイザンゲだが。アイツの友人に、キテソスイ研究所で研究をしている男がいるらしくてな、その男が今度、ここに来るというんだ」
「ほう」

 私は感嘆を漏らした。キテソスイ研究所とは、アルタイ山脈を越えたところにあるミエホソス王国の国立研究機関で、ミエホソス王国以外の国からも優秀な人材が集まる。そこで研究をしているというのならば、よっぽど勉強が出来る男なのだろう。

「何をしに来るんだ」

 問えば、友人は軽く肩をすくめた。

「よくは分からないが…何か神話とかこの地方の話とかを集めているらしいぜ。で、友人のイザンゲを頼って」
「ははあ。で、それがどうした」

 私が本に手を伸ばしながら聞くと、友人は僅かに眉を寄せた。私がそれほど乗ってこないのが気に食わないらしい。

「それでイザンゲが言うには、プレシャ教の司祭の話が聞きたいというのさ」

 プレシャ教は大陸では珍しく闇を神聖なものとして崇める宗教で、かつては大陸でも一般的な宗教であったそうだが、現在ではアルタイ山脈のこちら側、つまりハルサイ地方でしか信仰されていない。かくいう私もプレシャ教の信徒だ。

「成る程。司祭を紹介しろというわけだな」
「ああ。頼めるか」
「おそらくは。いつ来るんだ?」
「今日だ。イザンゲは予定があるらしくてな。迎えにも行って欲しいそうなんだよ」

 友人は再び身を乗り出した。

「お前、結局のところ暇なんだろ?」

 私は黙って肩をすくめた。彼の私を巻き込もうとする手腕には、お手上げだった。
posted by 久木 at 21:42| Comment(0) | TrackBack(0) | Sand land | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月27日

草原に住むある部族の祈りの言葉

透き通る光
類稀なる輝き
空を駆けし大蛇

そは 我らに知を授け
そは 我らに力を授け
そは 我らに法を授け

透き通る光
類稀なる輝き
空を駆けし大蛇

我らは そに知を返し
我らは そに力を返し
我らは そに法を返し

光は連なり輪となりて
輝き猛々しく力を欲す
大蛇の鱗は皓々としてそれを誇り
そは天空を貫く

我ら
愚者の為に知を示し
弱者の為に力を示し
暴徒の為に法を示し
世界の健やかならんことを願う
posted by 久木 at 22:07| Comment(0) | TrackBack(0) | Sand land | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月23日

プレシャ教の司祭の説教の言葉


民よ!
汝が信ずるは影か
汝が信ずるは光か

騙されるな!
そは見せかけの正義
そはまやかしの祈り

民よ!
汝が信ずるは影か
汝が信ずるは光か

騙されるな!
真の闇は全てを明かし
真の闇は全てを守護す

偉大なる影は 我らを包み
偉大なる主は 我らを導く

主よ!
願はくは
この祈り聞き届けたまえ

あまねく命に
あまねく栄光を!

posted by 久木 at 22:10| Comment(0) | TrackBack(0) | Sand land | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月16日

A ruined monster


 遠い遠い昔のこと。

 住処を追いやられた一匹のリュウが、西の海上に姿を現しました。

 リュウというのはトカゲをうーんと引き伸ばしたような形をしていて、銀色の鱗に一枚だけ青色の鱗を持った、雲の上にあるという世界で仕事をしている生き物です。

 リュウの仕事は雨を降らせることでした。雨を沢山降らせて、大きな海を作るのです。けれどもそのリュウは雨を降らせる場所を間違って、違う場所に海を作ってしまったのです。おかげで、海ができるはずだった場所に、ぽっかりと水のない空間ができました。

 雲の上の世界の王様はカンカンに怒りました。そしてリュウを、その水のない空間に追放してしまったのです。なのでリュウは、西の海上に姿を現したのでした。

 雲の下に降りて来たリュウは、地上の様子を見てびっくり仰天。

 そこは一面の砂の海でした。水がなくなった結果、海ができるはずだった場所には、砂の海ができていたのです。

 リュウはばしゃりと砂の海に飛び込みました。雲の中を泳ぐように体を動かすと、砂の中でも自由に動けました。そこでリュウは砂の中を泳いで、落ち着く場所を探しました。やがて、リュウは砂の海の中に埋もれた大きな岩の側で体を丸めて休みました。

 翌朝、朝日が照るとリュウは自然に目覚めて、また泳ぎだしました。泳ぐうちに、手足はどんどん丸くなってきて鰭になりました。尻尾もどんどん平たくなってきて、リュウはとうとう砂海豚になってしまったのです。

 だから砂海豚には、銀色の鱗の中に一枚だけ青色の鱗がありますし、彼らが空を見上げて鳴くと雨が降るといいます。
posted by 久木 at 00:04| Comment(2) | TrackBack(0) | Sand land | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月29日

ZAKKAI

ああ、あの花かい。不思議な色をしているだろう。

 え? いや、違うよ、育てたのは俺じゃない。勝手に咲いてくるんだ。育てるなんて、俺にはとても…。

 何で育てないかって?
 あの花にはちょっと不気味な話があってさ、それでだよ。別にその話が怖いとか、そういうわけじゃないけど。まあ、嫌な話なのさ。

 話? 別に話してもいいけど、聞いていて気持ちの良い話じゃあないよ。

 そうかい。そういうなら。

 ちょっと場所を変えようか。あんまりあの花の近くで、この話をしたくないんだよ。ちょうど昼飯時だ。どこかで何か食べながら話そうか。ははは、安心しな、アンタに奢ってくれとは言わないから。


続きを読む
posted by 久木 at 01:12| Comment(0) | TrackBack(0) | Sand land | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月28日

ein Kampf mit dem Drachen



太陽にかかっていた雲が晴れ、

岩の透き間から光が差し込み始めた。

鍾乳石から滴る雫が、

その身に光を閉じ込めて煌めく。

ひんやりとした石の地面に横たわり、

雫が地を打つ音と地下水の流れる音を聞く。

目を閉じて記憶を辿る。

一面の光が蘇り、郷愁の念が湧き上がる。

岩の切れ間から覗く空を、

有翼のドラゴンが飛ぶのが見えた。


posted by 久木 at 19:47| Comment(0) | TrackBack(0) | Sand land | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月18日

Oath



恋をしてしまった。


あの娘を見ると平静でいられない。
ドキドキして、顔に血がのぼるのが判る。
恥ずかしくって砂に潜って隠れるけれど、
本当はあの娘の側にいたいんだ。
あの娘がにっこり笑って僕の頭を撫でたりすると、
もうそれだけで、
その日は張り切って橇を引こうと思うんだ。


ああ、僕は恋をしてしまった!


けれども僕は砂海豚で、
あの娘に言葉は通じない。
夜毎に星に向かって祈るけれど、
やっぱり僕は砂海豚で。
なので、僕は
ただ彼女の乗る橇を力いっぱい引こうと思うのです。


posted by 久木 at 23:26| Comment(0) | TrackBack(0) | Sand land | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月17日

Traveler



青年は決意した。
決意した以上、もはやここには居れぬ。
青年は旅に出ねばならぬ。


ああ、しかし何処へ行けば良いのだろう。


目前に広がるのは、果てしない砂の大海。
砂鯨の背に乗る術はなく、
砂海豚のソリに乗る金もない。
筏を仕立てて行こうとも、砂の波の読み方も知らぬ。


ああ、何と自らの小さきことか。


けれども、青年は行かねばならぬ。
旅に出ねばならぬ。
自らの決意が実現する日まで、
険しき道を進まねばならぬ。

旅立つ青年に幸あらんことを!


posted by 久木 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Sand land | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月02日

「Sand land」展示物一覧

Sand landは、管理人の考えた架空の世界の詩やお話です。


□■ストーリー・詩■□
◇ストーリー
A ruined monster:リュウはとうとう砂海豚になってしまったのです。
ZAKKAI:これが、あの花にまつわる話だよ。

Barren conversation:プロローグ


◇詩
Traveler
Oath
ein Kampf mit dem Drachen


□■資料〜マイヤー・ローアンの研究ノートより■□
プレシャ教の司祭の説教の言葉
草原に住むある部族の祈りの言葉
posted by 久木 at 00:31| Comment(0) | TrackBack(0) | Sand land | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。